失敗するパターン1:コスト削減

 少し数字に強いIT業界のA社長は、いつも財務諸表の費用の欄を眺めて、どの費用を削減しようか考えています。販売促進費を減らそうか、あるいは人件費にしようかと。
一方で売上にはあまり関心はありません。
これまでにおおかた削減できるところは削り終わったのですが、業績は一向に向上しません。それどころかおカネは減る一方です。
目下の悩みは、「コスト削減は経営の原則だ。会計事務所もそう指導している。なのになぜ業績が良くならないのか?」です。
 私もおカネに苦労した経験があるのでA社長の気持ちは分かります。おカネが減ってくるとどうしても守りに入ってしまいます。生活費を切り詰めます。そして日々の目標切詰額を達成すると妙な充実感を覚え、これでいいのだと自己満足してしまいます。しかし、それでもやはりおカネは減る一方です。いっこうに問題は解決しません。

 A社の業績が良くならないのには二つの理由があります。
 一つ目は、「コスト」と「ムダ」を混同していることです。
コストもムダも支出には違いありませんが、コストとは売上を上げるのに必要な支出であり、ムダは売上に関係ない支出です。
ですから、コストを削ると売上も下がってしまいます。それだけでなく、肝心の品質も下がり、社員のヤル気も下がります。
「削減すべきはムダであってコストではありません。」
A社長はムダだけでなくコストまで削減していたのです。これでは業績は良くなりません。
「コスト削減を図ると会社はうまくいきません。」

 二つ目は、外部を見ずに、内部ばかりを見ていることです。
会社はおカネを増やすことで伸びますが、そのおカネは当然のことながら会社の外部から入ってきます。顧客への売上によってです。
支出を減らそうといくら社内を見ても、おカネは入って来ません。
内部で支出を減らしたところで、外部の売上を増やさない限りおカネは増えません。
そもそも会社の目的は、顧客に良質な商品・サービスを提供して、顧客に満足していただくことにあります。
顧客の方を向くことが、ひいては社会に受け入れられ、長続きする会社につながります。
逆に、顧客の方を向かない会社は、社会に受け入れられず、自然に淘汰されていきます。

 会計事務所は「コストを減らして、売上を増やしなさい」と指導しますが、
正しくは「ムダを減らして、コストはむしろ増やして、お客さんの方を向いてさらに売上を増やすことを考えなさい」です。